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俺は階段の一番下でその様子を見守っていた。 爺さんはその鍛え上げられた肉体の上半身を露わに、時に水色化け物の横を、時にラッパキリンの頭に飛び乗り、二匹の攻撃をかわし続けていた。 そして爺さんが扉の前に着地すると、水色化け物は今だとばかりに吸い込み始めた、しかしその背後には……。 頭に血が登ったラッパキリンが最大出力、猛烈な勢いで水を噴出していた。 爆音とも言える轟音と一緒に大量の水が流れて行くを見届けると、俺は二階に上がった、そして爺さんの開けた穴(正確にはラッパキリンが開けた穴だが)からそろりそろりと外に出ると、下で待ってた明地先輩めがけて飛び降りた。 明地先輩が俺をナイスキャッチして下に降ろしたとき、次に目に入ったのはペロペロペロペロと二〇匹のポチ達が水色化け物を舐めまくる姿だった。 水色化け物はなんと身を捩らせ笑っているように見えた。 その間に、爺さんが水色化け物の上への乗ると、その巨大な一つ目の上にある小さなホクロに向かって爪を立てた!
■ ■ ■
歩が考えた策はこうだった、ラッパキリンを誘導し、水色化け物をその水圧で外に出し、ポチに動きを止めてもらい、そのうちに弱点である目の上のホクロのリセットボタンを押すということだった。 「ミカ先輩!俺頑張ってますよ!」
結局、俺はまた屋敷に侵入すると全速力で水色バケモノから逃げて、爺さんがキリンを誘導している間に、さっき爺さんの開けた穴からポチを明地先輩に落として渡す役を買って出たのである。 大きな地響きと共に、水色一つ目吸引ロボットは目を閉じて動かなくなった。
「やった!」
「よし」
「やったー!」
「はい、成功です」
動かなくなったピカピカの水色ロボットは、口の辺りの装甲を外すと中はゴムみたいな皮膚が広がっていた。 「いや、助けられちゃったねこりゃまた」 皮肉げに笑った。 「うおりゃああ!」 俺は走って助走をつけると、その顔面にキック……は届かないから弁慶の泣き所に蹴りを決めた。
「いてええええ!」
二番目に出てきたのは、みちるの父さんと母さんだった。 「みつえ!しっかりしてくれみつえ!」 と必死に呼びかけていた。 「う……うーん……あなた?」 埃だらけのおばさんは、おじさんの呼びかけにうっすらと目を開いた、そして、 「うおりゃー!この裏切り者―!」 力いっぱいおじさんの顔を殴りつけた。
「待ってくれみつえ!私が悪かった!」
何だか大変なことになっているがこれは別にどうでもいいか。 「湖春!」 明地先輩が駆け寄って、何と抱きしめかけたが、たじろぐ湖春先輩に我に返り湖春先輩の頭についた埃を払うだけにした。
「大丈夫か?」
赤くなって目を逸らす湖春先輩。 「みちるさんっ!」 そんな俺の左横から外れて、歩がみちるに駆け寄る。 「みちるさん、あなたは本当に無茶苦茶な人です、本当にどうしようもない人です、こんなに沢山の人に迷惑をかけて、ちゃんと謝ってくださいね。本当に、目の離せない人なのですから」 そんな歩にみちるは困ったように笑いかけて、 「すまん、心配掛けたな」
と言った。 「歩ちゃん、カッコ良かったな!私の小説のヒーローにするなら、歩ちゃんがいいな!」
と言って両手の平で顔を包んだ。 「ちょっと待った!なあなあ!明日どうしますよ!お参り行くでしょ?お参り?神社!俺たちサークルの恒例行事でしょう!ね!ね!!」
俺はそんなみんなの中心に立ってそう演説した。
「え、えーっと、じゃあ、行こうかしらね」 歩も頷く。
「ええ、もちろん行きます。私、今年初めてですから」 みちるも同じく同意しかけたが、 「お前は家の後始末だ!」 おばさんによってタコ殴りにされているおじさんに止められて「ちぇー」と手を頭の後ろで組んだ。 「歩ちゃんが行くなら私も行くー」
ミカ先輩は無邪気に行くことを表明した。
「フフフ」 ニヤニヤ笑っていた俺の隣に、ヘラヘラ笑いながらみちるがやってきた。
「別に何でもねえよ。いやあ、化け物なんていなくて良かったなーって、結局あれ全部ロボットだったんだろ?」
他人事のようにみちるは呟く。 「あの、みちるさん、あのお爺さんは誰なんですか?」 あ、あの謎の爺さんか、そう言えば何だかさっきからずっと見ないな。 「爺さん?うち今日はお手伝いさんみんな休みにしてるし、三人暮らしで爺さんは母方も父方ももうあの世だよ」 え? 「そ、そんなはずは……確かにとてつもない身体能力を持った……」 焦る歩を知らずに、みちるは思い出しかのように手を打った。 「そうだ!そういや俺達の財を築いたミラクルご先祖様ってのがいて、とにかくミラクルで、財と家族を築いて老人になったある日『儂は眠る、この家が危機に瀕した時、儂はまた蘇るであろう』と言う書き置きを残してぱったり消えたんだってさ、何だろねそのふざけた書き置き」
間抜けに笑うみちるの隣と前で、俺と歩はしばらく顔を見合わせていた。
二〇一五年一二月三一日、俺達は化け物に出会った。 |
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