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 俺は階段の一番下でその様子を見守っていた。
 爺さんはその鍛え上げられた肉体の上半身を露わに、時に水色化け物の横を、時にラッパキリンの頭に飛び乗り、二匹の攻撃をかわし続けていた。
 そして爺さんが扉の前に着地すると、水色化け物は今だとばかりに吸い込み始めた、しかしその背後には……。
 頭に血が登ったラッパキリンが最大出力、猛烈な勢いで水を噴出していた。
 爆音とも言える轟音と一緒に大量の水が流れて行くを見届けると、俺は二階に上がった、そして爺さんの開けた穴(正確にはラッパキリンが開けた穴だが)からそろりそろりと外に出ると、下で待ってた明地先輩めがけて飛び降りた。
 明地先輩が俺をナイスキャッチして下に降ろしたとき、次に目に入ったのはペロペロペロペロと二〇匹のポチ達が水色化け物を舐めまくる姿だった。
 水色化け物はなんと身を捩らせ笑っているように見えた。
 その間に、爺さんが水色化け物の上への乗ると、その巨大な一つ目の上にある小さなホクロに向かって爪を立てた!

 歩が考えた策はこうだった、ラッパキリンを誘導し、水色化け物をその水圧で外に出し、ポチに動きを止めてもらい、そのうちに弱点である目の上のホクロのリセットボタンを押すということだった。
 ポチを持って来るのは俺と明地先輩で、ラッパキリンで水色化け物を外に出し、ホクロを押すのが謎の爺さんの役目となった。
 爺さん大変な役だなと思うが爺さん自身が申し出た仕事だし、何よりどういう訳か謎の爺さんは俺達皆から信頼される仲間になっていたのだ。
 羊羹もって追いかけられたのに。
 ミカ先輩は応援役をしている、これが俺には効いたね。

「ミカ先輩!俺頑張ってますよ!」

 結局、俺はまた屋敷に侵入すると全速力で水色バケモノから逃げて、爺さんがキリンを誘導している間に、さっき爺さんの開けた穴からポチを明地先輩に落として渡す役を買って出たのである。
 ポチは汚いものをペロペロ舐める床拭きロボットのようだ。
 然るに、水色化け物を汚せばポチは舐めまくる。
 何か汚れてるものはないだろうかと探したが結局、持ってきた洗剤を池の水で溶かし、水色ロボットにぶっかけることにしたのだ、洗剤も拭かなければ汚れのうち、それに床拭きロボットならば洗剤を拭きたがるだろうという見解だ。
 そこで謎の身体能力を持つ謎の爺さんがリセットボタンを押す、というものだ。
 結果は……。

 大きな地響きと共に、水色一つ目吸引ロボットは目を閉じて動かなくなった。

「やった!」
 俺。

「よし」
 明地先輩。

「やったー!」
 ミカ先輩。

「はい、成功です」
 歩。

 動かなくなったピカピカの水色ロボットは、口の辺りの装甲を外すと中はゴムみたいな皮膚が広がっていた。
 そこから出てきたのはまずみちる。

「いや、助けられちゃったねこりゃまた」

 皮肉げに笑った。

「うおりゃああ!」

 俺は走って助走をつけると、その顔面にキック……は届かないから弁慶の泣き所に蹴りを決めた。

「いてええええ!」
「何やってんだみちるこっちは死にかけたぞ!」
「俺も死にかけたよ……」

 二番目に出てきたのは、みちるの父さんと母さんだった。
 みちるより少し背の低い髪の毛の薄いおじさんは、みちるより大分背の低い何処にでもいる普通のお母さんっぽいおばさんを抱きかかえて、

「みつえ!しっかりしてくれみつえ!」

 と必死に呼びかけていた。

「う……うーん……あなた?」

 埃だらけのおばさんは、おじさんの呼びかけにうっすらと目を開いた、そして、

「うおりゃー!この裏切り者―!」

 力いっぱいおじさんの顔を殴りつけた。

「待ってくれみつえ!私が悪かった!」
「何が悪かったですか!書斎の本全部捨てても物足りぬわ!」
「うわあああ許してくれみつえー!」

 何だか大変なことになっているがこれは別にどうでもいいか。
 ちなみに書斎の本なら、歩とミカ先輩が綺麗に積み上げてしまっている。
 最後に出てきたのは、湖春先輩だった、歩と対抗できる位不機嫌そうな表情で、体中の埃を振り落としながら出てきた。

「湖春!」

 明地先輩が駆け寄って、何と抱きしめかけたが、たじろぐ湖春先輩に我に返り湖春先輩の頭についた埃を払うだけにした。

「大丈夫か?」
「うん、まあ……」

 赤くなって目を逸らす湖春先輩。
 あれ?ちょっと待ってくれ、何だこの雰囲気は?

「みちるさんっ!」

 そんな俺の左横から外れて、歩がみちるに駆け寄る。

「みちるさん、あなたは本当に無茶苦茶な人です、本当にどうしようもない人です、こんなに沢山の人に迷惑をかけて、ちゃんと謝ってくださいね。本当に、目の離せない人なのですから」

 そんな歩にみちるは困ったように笑いかけて、

「すまん、心配掛けたな」

 と言った。
 ん?ん?ん?
 腑に落ちない俺の左では、ミカ先輩が、

「歩ちゃん、カッコ良かったな!私の小説のヒーローにするなら、歩ちゃんがいいな!」

 と言って両手の平で顔を包んだ。
 ん?ん?ん?ん?えー?

「ちょっと待った!なあなあ!明日どうしますよ!お参り行くでしょ?お参り?神社!俺たちサークルの恒例行事でしょう!ね!ね!!」

 俺はそんなみんなの中心に立ってそう演説した。
 湖春先輩と明地先輩は、俺の方を向くと、ぎこちなく同意した。

「え、えーっと、じゃあ、行こうかしらね」
「そ、そうだな、今年も行くか」

 歩も頷く。

「ええ、もちろん行きます。私、今年初めてですから」
「おれもー」

 みちるも同じく同意しかけたが、

「お前は家の後始末だ!」

 おばさんによってタコ殴りにされているおじさんに止められて「ちぇー」と手を頭の後ろで組んだ。

「歩ちゃんが行くなら私も行くー」

 ミカ先輩は無邪気に行くことを表明した。
 みんなが各々後処理に分かれ始めたのを見守って、俺は満足げに頷いた。
 俺の名前は大川正、俺の関わらないフラグは立たせない!

「フフフ」
「何やってんだ正、きめえ」

 ニヤニヤ笑っていた俺の隣に、ヘラヘラ笑いながらみちるがやってきた。

「別に何でもねえよ。いやあ、化け物なんていなくて良かったなーって、結局あれ全部ロボットだったんだろ?」
「ああ、高かったんだぜ、どうすんだろうなあれ」

 他人事のようにみちるは呟く。
 その隣に歩が近づいて来た。

「あの、みちるさん、あのお爺さんは誰なんですか?」

 あ、あの謎の爺さんか、そう言えば何だかさっきからずっと見ないな。

「爺さん?うち今日はお手伝いさんみんな休みにしてるし、三人暮らしで爺さんは母方も父方ももうあの世だよ」

 え?

「そ、そんなはずは……確かにとてつもない身体能力を持った……」

 焦る歩を知らずに、みちるは思い出しかのように手を打った。

「そうだ!そういや俺達の財を築いたミラクルご先祖様ってのがいて、とにかくミラクルで、財と家族を築いて老人になったある日『儂は眠る、この家が危機に瀕した時、儂はまた蘇るであろう』と言う書き置きを残してぱったり消えたんだってさ、何だろねそのふざけた書き置き」

 間抜けに笑うみちるの隣と前で、俺と歩はしばらく顔を見合わせていた。

 二〇一五年一二月三一日、俺達は化け物に出会った。


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