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 第三の部屋へとゆっくりと入った俺達は、とりあえず部屋中をそろそろと調べて何もないことを確認した。
 いや、何もない訳でもなかったが。
 大きなショーケースには、怪獣だの恐竜だのの未知の生物のプラモデルが並び、映画のポスターが天井いっぱいに貼られていた。
 真ん中には殺風景なベッドが置かれ、テレビとオーディオ、やりもしないドラムがあり、そしてやはり軽く風呂場と台所まである。
 奥の部屋にはパソコンがあり、そこはもっぱら小説書く部屋で、奴の書斎となっている。
 ちなみにこの屋敷、ちゃんと厨房と温泉も設備されているはずなのだが。

「おかしいな、みちるの奴いないな、あいつどこ行ったんだ?」

 首を傾げる俺に、明地先輩は青い顔をして、

「あの老人に……」

 と呟いた。
 いや、そこはあの水色化け物でしょうとツッコミかけ、口ごもった、ありうる。

「……パソコン見てみるか?」

 絶望的な状況の中、明地先輩は書斎を指さす、俺も頷いた。
 書斎の中は、一階の書斎と似たようなものだった、観葉植物に大量の本棚、パソコンの置かれた机に椅子。
 ただしこちらの書斎の本棚には、莫大な量の本が収められていて、窓の明かりが部屋を照らしていた。
 外には鯉の泳ぐ池が見える。
 今日みちるの家を初めてしみじみ見ることになって思うことは、いつ来ても和洋節操なしの家だな、ということだった。
 パソコンを触ると、静かに省エネモードから開放され画面がパスワード入力画面に変わった。

「何か入れてみるか?」

 明地先輩が俺に訪ねて来る。

「えと、じゃあローマ字でみちるって入れてみましょうか」

 俺は席につくと、取り敢えずMITIRUと入力してみた。
 パスワードが違います、その文字だけ出て画面は変わらない、いや、少し変わっている。

『ヒント・サークル名』

「……」
「……ザルだなこいつん家のセキュリティ」

 俺は呆れながら言うと『小説家志望物語』とローマ字で入力する。
 特に起動音もなく画面が開いた。
 宇宙人が六匹いるパソコンの画面は無視してやる。

「助かってるといいな、あいつと湖春……」

 なにやら感傷モードとなってしまった明地先輩をよそに、日記というフォルダを見つけた俺は、

「ここ!日記がありますね!」

 フォルダをクリックして、中を開く、ざっと見て十年前の日記まであった、こいつ、結構マメな奴だったんだな。
 どんな事が書かれているのだろうか、興味があったが今は今日の日付である二〇一五年一二月三一日を開いた。

『二〇一五年十二月三十一日、曇、誰か助けてくれ……』

「……また何かオチがあるんじゃないだろうな」
「そうならないことを祈りましょう」

『十二月三〇日、曇、奴らが意思を持ち暴走し出した、困った、制御不可能、あいつらは欲望が増えすぎた』

 ごくり、俺と明地先輩は息を飲んだ、今度は当たりな気がする、顔を見合わせると、二九日の日記へと矢印を進める。
『十二月二十九日、雨、高科学ロボット研究所から通販が届いた、最新の掃除機器らしい、安い買い物じゃなかったけどスペックも外見も俺好み。早速起動してみる』

「……正、これはどういうオチなんだ?」
「……さあ?」

 ロボット?掃除機器?
 考える間もなく、爆音が隣の部屋から響き渡ってきた。
 驚いてドアから隣の部屋を見ると部屋の入り口の扉が壊され、変わりに口をラッパのように突き出した、山吹色と白の縞々模様をしたキリンのような生き物がこっちを見ていた。
 今度は何だ。
 何も言わないラッパキリンは、数秒こちらじっと見るだけ見ていた。
 その二つの瞳は、世界を綺麗にしてあげますと言わんばかりにキラキラと輝いている。

『異物侵入、異物侵入、掃除モードに入ります、スタンバイオーケー?スリー、ツー……』

「待て待て待て!何かする気だぞこのラッパキリン!」
「ににに逃げましょう!逃げましょう!先輩!」
「どこへだー!」

 俺達のうろたえっぷりに心を動かされることもなかったらしい、それは無情にもそう告げた。

『ゼロ』

 ラッパキリンの口から勢い良く大量の水が発射されたと思ったら、俺達二人をまとめて水圧でぶっとばした。

「うおおおおおおお!」
「ぎゃああああああ!」

 背中で窓をぶち破る感覚があり、空中に放り出された俺達はそのまま一階へと落下していく。
 終わった?俺の人生。
 ああ、結局ワナビのまま終わるのか……、せめて、せめて巨乳に触りながら死を迎えたかった。

「「あああああああああああ!」」

 またも水圧。
 今度は落ちた先にだ。

「ぶはあ!」
「ぶひ!」

 明地先輩と俺は、運良く池に落ちたらしい、水浸しだったがなんとか無傷だ。
心には傷を負ったような気がするが。
 池の鯉がびっくりしてばちゃばちゃと泳いでいる。

「うおおおおおお!」
「ぎゃあああああ!」

 外に出た俺達は、そのまま一箇所に向かって全速力で走り出した。

「うおおおおお!」
「ぎゃああああ!」

 懐かしい二人の姿が見えた、その姿がどんどん大きくなるにつれ、二人の顔が俺達への恐怖に変わっていくのが有り有りと分かった。
だが、そんな事どうでもいい。
 とにかく俺達は二階から落とされ池に落ちたショックで変な興奮状態となっていたのだ。

「うおおおおお!」
「ぎゃああああ!」

 叫びながら事情を身振り手振りで説明しようとするも上手くいかず、そうこうするうちに時間だけが経っていく。
 ふいに歩が俺の前に立ったと思ったら、

「失礼します、大川さん」

 パチリとその手で平手打ちをくらわされた。

「はあはあはあ……あれ?」
「落ち着きましたが?大川さん」

 歩はいつも通り無愛想に俺を見つめると、よしよしと俺の頭を撫でた。
 その様子を見て明地先輩も我に返ったのか、いつの間にか叫ぶのを止めていた。

「歩!湖春が!」
「みちるが通販で!」
「吸い込まれて!」
「掃除ロボットを!」

 あたふたと交互に説明する明地先輩と俺の言葉を不機嫌そうに聞きながら、小一時間、一休さんがとんちを解き明かすくらいの間、歩は考えると、

「大体の話しは分かりました」

 と言ったので、

「「マジでか!?」」

 と説明した俺達の方が二人で驚いてしまった。

「とにかく、その湖春さんを吸い込んだ掃除ロボットをどうにかしなければいけませんね、困りました、図面でもあればいいのですが」

 ああ、ああ、そういう訳か。
 自分で説明した俺達でさえ分からなかったことを歩は解き明かしたのだった。

「あ!あれは何!?」

 ミカ先輩が空を指さす。
 そこには、水圧により窓を突き破り外へと飛び出した一人の……老人の姿があった。
 いつの間にか雲は晴れたのだろう、太陽の光を受けキラキラと宙を舞うその姿はどこか神々しくもあった。
 空中で三回転を決め、俺達四人の前に華麗に着地した老人は、箒と羊羹を足に置くと、

「うひょひょひょひょひょ!非常食を持って屋敷の隅から隅まで徘徊すること数時間。やっとで脱出できたわい!どれお嬢さん、あやつらの図面なら儂が持ってるじゃに」

 爺さんは割烹着のポケットから折り畳んだ紙を取り出すと、その数枚の図面を俺達の目の前にひらめかせた。

「爺さん何で!?」

 青空の下、もはや恐怖はどこへやらの俺の問いに爺さんは笑って答えた。

「うひょひょひょひょひょ!年の功じゃな!」

 歩はそれを受け取ると綺麗に並べられた本の上に並べて、ふむと考えた。
 じっと俺達の視線と期待を受ける事数分の後。

「分かりました、じゃあこうしましょう」


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