「チッ」
と女王スタイルのまま舌打ちすると、ステッキを適当に振り回して、
「フワランフワランミラクルクル、魔法の世界に私の魔力よ満ちろー」
と適当に呟いた。
「もう!またそんな適当に……」
しかし、その呪文を唱えると、カガクの回りで虹色の光が踊り始めたのだ。
「え?」
ミラクルくんは、驚いて目を見開いたままその光景を凝視していた。
虹色の光はステッキの先端に順番に満ちていき、全部輝くと、空に向かって発射され、大きな虹色の柱を作り出した。
キラキラと音まで聞こえるその柱は、大量の魔力の塊。
自分の魔法パワーが蘇ってきているのと同時に、ミラクルくんは魔法世界に魔法力が蘇って来ているのが感じらた。
やる気のなさそうなカガクの横でミラクルくんは、はしゃぎまくって光の柱の上へと飛んで行こうとしていた。
「ありがとうございますカガクさま!これで千年は大丈夫です!」
上へ上へ飛んで行きながら、去って行くミラクルくんをカガクは眩しそうに見送った。
「あ!花の王子にはよろしくです!きっとカガクさまの近くに転生してるです!」
キラキラ輝くミラクルくんに、カガクは眉を潜めて最後の疑問の言葉を投げ掛ける。
「花の王子って?」
「千年前、魔王を封印したとき、クランシオーネさまと一緒に命を使って魔王を封印した花の国の王子です!花の国の王子とクランシオーネさまは恋人だったです!きっと転生しても結ばれるです!花の国の王子は最後にクランシオーネさまに、自分だと分かるように印を持って生まれ変わるって言ってたです!きっと分かるです!ありがとうクランシオーネさま!いや!カガクさま!」
光の柱が空に吸い込まれる。
柱が消えると同時に、ミラクルくんの姿も消えていた、柱と共に魔法の世界へと帰ったのだろう。
カガクは呆れて微笑んだ。
「全く、最後の最後に余計な情報を……」
良かったわね、もう来るんじゃないわよ。そう心に思い描きながら。
「で、この姿はいつ戻るの?」
カガクはまだ女王の姿でそこに佇んでいた。
元に戻るのに三時間を必要とした。
三十分後、ぎこちなく微笑むバイトのメンバーに挨拶しながら、
「あいつまた来たら握り潰す」
と呟くカガクの姿があったらしい。
■ ■ ■
カガクの心を無視して、その日の朝もさわやかな秋晴れであった。
窓の外を覗きながら、カガクはセーラー服に着替える。
安家賃のボロアパートの一室で、カガクは鏡の前で姿を一度確認すると、
「よし」
と言って鞄を持ち部屋を出た。
隣の部屋では、両親がTVを見ながら朗らかに雑談をしていた。
「おや、カガク、見てごらん、悪野さんが出てるよ」
人の良さそうな父親が、二度と見たくもないツラをニコニコ微笑みながら指差していた。
悪野は最近出来た会社のやり手若社長、という設定である。
TVで取材を受ける悪野は「自分悪野って名前ですけど、悪じゃないんですよ」とか言っている。
何を言っているんだこいつ、悪というものがあるならこいつそのものじゃないか。
「成功したんだねえ、悪野さん、良かった、良かった」
母親もニコニコとTVに微笑む。
成功したもなにも、大金持ちだったうちの財産を全部かすめ取りそれで成功したんじゃないか。
しかし、人の良い両親は、それを理解しようとしていないのか嬉しそうに画面を見続けていた。
それがたまらなく嫌で、カガクは黙ってチャンネルを変えた。
「あら、悪野さんが出てたのに」
次に現れた画面は、空に登る巨大ロボットの姿。
『昨日5時頃、秋島町で巨大ロボットが出現したようです、目撃者は、どこかの研究所からやってきた開発中のロボットであると……』
カガクはTVのチャンネルを次々に変える。
『なんと、秋島町で巨大ロボットが……』
『空を飛ぶ巨大ロボットなんてこの世界にあるわけないでしょう、目撃者が集団幻覚を見たんですよ』
カガクはTVを切った。
軽い電子音を残しながら、黒い画面が現れる。
父親と母親は、カガクの行動を呆然と見ていたが、カガクの機嫌が悪いのはいつものこと、またニコニコと雑談を始めた。
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