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 曇天の空の下、本の山を前にした二人の少女のうち一人が、正達の消えていった扉の方を向いた。

「…………ミカ先輩、何かうるさくないですか?」
「えっ?私うるさかったかな?ごめんね、珍しい本が一杯あってびっくりしちゃった」
「いえそういう意味でなく、何か誰かの叫び声や、すごく聞き慣れた音が……」

 ミカは読んでいた本を落としそうになった、ある一つの考えに答えが至ったからだ。

「歩ちゃん……もしかして霊感少女だったの!?」
「目を輝かせないでください、私にそんな非科学的なものはありません、それにここはみちるさんの家ですよ、起こるとしたら……」

 歩は屋敷を見上げる、どう言う訳かこの前明地と共にここに来た時とは雰囲気が違って見えた。
 そう、例えるならば一つの由緒正しき名家から要塞へと姿を変えたかのように。

「……起こるとしたら、謎の生物の出てくるパニック物でしょう」

 部屋の中は、廊下とは打って変わって静かなものだった。
 ここは書斎だっただろうか、沢山の本棚が並んでいる。
 しかしそこにあるはずの沢山の本はなくて、空の本棚がただただ並んでいるだけだった、もしかしてここにあった本が外に出されていた本なのだろうか?
 静か故に、落ち込んだ明地先輩がその場の空気を重くする。

「俺は何もできない男だ……何がヒーローだ……」
「先輩、落ち込んでも何もできないでしょう、とにかくこの屋敷から脱出する手立てを考えるんですよ!」
 明地先輩は、どんより、という表現が似合う表情を俺に向けるとまた膝を抱えてうずくまってしまった。

「ああ!そんなんじゃ湖春先輩を助けられないでしょう!」
「……助ける……」

 お、少し反応があったぞ。

「そうです!湖春先輩はきっと助けを待ってます!」
「助けを待ってる……」
「さあ立ち上がるんです!ヒーロー!世界は明地先輩を待ってる!」
「うおおおおおおおお!」

 やった!感動の復活だ!
 必死の形相で立ち上がった明地先輩は、俺の方を向くと、

「悪い、正。目が覚めた、とにかく警察だか自衛隊だかに連絡だ。それからはとりあえずここに何か手がかりはないか調べてみよう。俺達だけでできることを探すんだ」

 そう言い、ポケットから携帯を取り出そうとして、

「あ、しまった、携帯、バケツに入れてた……扉の外だ……」

 先輩は頭を抱えたが、そんな時こそ俺の出番ですよ。
 先輩に笑いかけ、任せて下さいと親指を立て、ポケットからスマフォを取り出した。

「あ」
「あ?」
「俺のスマフォさっきの騒動でなんか壊れてる……」

 その事実に今度は二人して頭を抱えた。

「……とにかく!この部屋に手がかりがないか探してみましょう!もしかしたらあのバケモノをどうにかできる手がかりがあるかもしれませんよ!ゲームだったらそんな感じでしょう!」
「そ、そうだな!じゃあ探すか!」

 俺の気迫に押されてか明地先輩は部屋を見渡し始めた。
 俺も部屋を調べ始めるが、言っては見たものの、部屋のほとんどを占める本棚は空だし、残るは観葉植物と真ん中に置かれた机と椅子、と机の上に置かれたノートパソコン。
 隣に通じる部屋を見るも、そこにも空の本棚ばかりが並んでいた。

「パソコンが怪しいですよね」
「だがパソコンなんてパスワードが必要だろう」

 開いたままのノートパソコンの画面は真っ暗だった、備え付けられたマウスを少し動かすと、機械音と共に画面が明るくなる。

『パスワードを言ってください』

「「音声!?」」

 同時に驚いた明地先輩と声がダブってしまった。

『間違いです、後二回でロックがかかります、パスワードを言ってください』

「おおおおい、正、何か言え!俺よりこの家に詳しいだろ!」
「んな友達の親のパスワードなんて知りませんよ!」

 超小さな声でどうするか話し合う俺達だったが、ノートパソコンのセキュリティシステムは待ってくれない。

『時間です、後十秒で言ってください、十……九……』

「「わー!」」

 超小さな声で叫ぶ俺の脳裏に、閃きがあった。試してみるのも良いかもしれない。

「えーコホン……『みつえ、あいしている』……」

「……」
「……」

『……間違いです、後一回でロックがかかります、パスワードを言ってください』

「違うじゃないかー!」
「えー俺のせいですか!?」

 ヒソヒソ声で怒鳴り会う俺たちを無視してノートパソコンは先を急ぐ。

『時間です、後十秒で言ってください、十……九……八……七……』

「わー!おっぱいぽよんぽよーん!」
「……」
「……」

『パスワードを確認しました、ようこそうんこっこ』

「え?」
「え?」

 俺と明地先輩は同時に言葉が出た。

「え?どうなってんだ?え?」

 え?と言い続ける明地先輩は、納得行かないという表情でこっちを見る。
 俺だって分からない、多分俺も先輩と同じ表情をしているのだと思う。

「え?えっと、つまり、入り口と同じセキュリティを使ってるのではと」

 適当に答えてみるも、そうかもしれない。

「……みちると言いそれでいいのかここのセキュリティ」
「……パスワードは一つ一つ変えたほうが良いと言う良い見本ですよね……。いやでもほら、パソコンの中が見れたんだから良いじゃないですか!」

 画面が変わり、音声確認画面から、緑豊かな画面へと変わる。大富豪の家らしく、仰々しいアイコンが並んで……なかった。

「コットンアイランド?メルメルパラダイス?なんだこりゃ」

 明地先輩が大量に並ぶ意味不明のアイコンの数々に「?」を飛ばす。

「ゲームですね、フリーゲームでしょう、聞いたことありません?これはどうもそれ専用のパソコンのようです」

 実はメルメルパラダイスはやったことがある、羊の育成ゲームだ。
 殺し屋に育成し世界を乗っ取ることもできる。

「あんだけ苦労して収入がこれだけか……」

 ぼやく明地先輩の横でパソコンを調べ続ける俺は、インターネットに入りあるブログに辿り着いた。

「先輩!これここの人のブログですよ!今日のブログもある!」
「よし!見てみろ!」

『☆のりゆきのわくわく今日も人生は楽しいぞブログ☆

・一二月三一日
 くもり
 だれかたすけてくれ……。』

 隣で明地先輩が口元を抑えた。

「いきなりだな……」
「前の記事を見てみます……」

『・一二月二九日
 あめ
 妻にバレた、殺される……。』

『・一二月二五日
 はれ
 キャバクラのマイアちゃんにチューされた。
 うひょひょひょ。』

「……」
「……」

 俺はそっとノートパソコンを閉じた。

「正、俺は考えたんだが、メールが来たのはみちるからだろう?と言うことはみちるもまだこの家の何処かにいるんじゃないか?」

 真剣な眼差しで明地先輩が話しかけてきた。

「そうですね、じゃあみちるの部屋に行きましょうか?」

 俺も努めて真剣に明地先輩を見る。
 ここには何もない、そう確信した俺達は、扉の隙間からそっと外を覗いてみた。


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