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 容姿端麗成績優秀スポーツ万能、公立水無月高校の女王という二つ名を欲しいままにしているその少女の名前は瑠璃川カガク、年は十七才。
 肩まである黒髪をなびかせながら、キチンとした姿勢で綺麗に廊下を歩く彼女の後ろには、ぼさぼさ髪を振り乱しながら、横幅も縦幅もある大きな少年がぼてぼてと瑠璃川の後ろをつきまといながら愛の言葉を叫び続けていた。

「瑠璃川さん!あなたは僕の女神だ、太陽だ!どうか僕を側に置いてください!」

 カガクは一旦足を止めると、くるりと振り返り少年に指を突きつける。

「ええい、ガタガタ煩いわね桃川、私は誰とも付き合う気はないの!そういうバカらしいこと大嫌いなの、分かる?それにあなたと付き合って私に何のメリットがあるというの?側に置いておいてほしいなら、良い道具になる技量でもつけてきなさいよ!」
「ブヒイ!」
「ブヒイ言うな!」

 ブヒブヒ言うでかい少年桃川は、それでも諦めきれずにカガクの足にすがりつこうとしたその時、

「桃川君、もう止した方がいいよ、女の子に簡単に抱きつくものじゃない、それに瑠璃川さんが君を蹴る気満々だよ」

 ぽやっとした男が美術室の扉から姿を出した。
 手には花を活けた花瓶。毎日花の絵を描いている美術教師の塔木だ。
 その声に、桃川はすがりつく寸前で手を止め、カガクをそんな桃川を蹴るために上げた足を止めた。

「ほらほら、桃川はこっち来て、少し話そう、瑠璃川はもう帰りなさい、寄り道しちゃダメだよ」
「ブヒイ……」
「ふんっ!」

 切なそうにこっちを見る桃川とその肩に手を置く塔木を一瞥すると、カガクはセーラー服を翻して靴箱へと向かった。
 彼女の迫力に、回りの生徒達はモーゼが来た海のように道を開ける。
 こんなことしてる場合じゃない、カガクは心の中で呟く。
 放課後はバイト、勉強、ジョギングとスケジュールが待っているのだ。
 完璧であるために。
 そう、世の中は金と頭と体力、現実なんてそんなもの。
 愛が何?そんなもので飯が食えるの?夢が何?そんなもの暇人の遊び。世の中にあるのは一も二も現実、リアルな世界なのよ。
 そう、世界は夢も希望もありゃしないの。

「魔法の女王クランシオーネさま!」

 どこからともなく可愛らしい声がする、カガクは聞こえながらも自分のこととは思わず川のほとりをスタスタと歩き続けた。
 どうせ近くで子供が魔法の女王ごっこでもしているのだろう。

「魔法の女王さま!カガクさま!こっちですよ!」

 カガクなんて変な名前私の他にもいるのだろうか、思いながらもカガクは歩くスピードを緩めない、真っ直ぐに前を向いて歩き続ける。

「瑠璃川カガクさま!あなたのことですよ!うぎゅ!」

 柔らかくふわふわとした感覚が顔にぶつかり、同時に「キュラリン☆」なんて効果音まで聞こえてきたのだから、今度はさすがに無視できない。
 足を止めたカガクは、顔にぶつかった何かをむんずと掴まえ引き剥がすとまじまじとそれを観察した。
 直径20センチくらいだろうか、頭に2個、シッポに1個ハートを付けたその生き物は、ちまたの女子高生が見たら「可愛い!」と喜ぶものだろうが、相手はカガク、見事に無反応であった。

「そ、そんなに見つめられると照れちゃうです、ってうぴゃぴゃ!やめてくださいですー!むぎゅぎゅ!」

 手の中でもじもじとしだす謎の生命体をカガクはしばらく無表情で観察していたが、いきなり両手で揉んだり引っ張ったりをし始めた。
 手の中の謎の生命体は柔らかく肌触りも良く、カガクでさえうっかり抱きしめたいと思ってしまう程のものだった。

「なにこれ」

 珍妙な表情で、カガクは目の前の生物を凝視する。

「はあはあ、よくぞ聞いてくれましたカガクさま、僕の名前はミラクルくん、こことは別の世界にある魔法の国の住人です!」

 そう言うとミラクルくんはカガクの手からふわり飛んで、空中で星マークが付きそうなポーズを取った。

「今魔法の国は、長らくの女王クランシオーネさまの不在により、魔法力が足りなくなってピンチになってしまっています。そういうことで、僕ら魔法の国の役員は総力をかけてどこかに転生したクランシオーネさまを探しにきたのです!」

 何やら説明しながら、ミラクルくんは喜びを表現するかのようにカガクの頭の上をくるくると回る。

「それがカガクさま!あなたなのです!僕には見えます、あなたの影にあるクランシオーネさまのオーラが!」


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